《くら》の二階の金網《かなあみ》に
赤い夕日がかっとてり
さむれば母の膝《ひざ》まくら。
[#改丁、左寄せ]
日本のむすめ
[#改丁]
宵待草
まてどくらせどこぬひとを
宵待草《よひまちぐさ》のやるせなさ
こよひは月もでぬさうな。
[#改ページ]
わすれな草
袂《たもと》の風を身にしめて
ゆふべゆふべのものおもひ。
野《の》ずえはるかにみわたせば
わかれてきぬる窓の灯《ひ》の
なみだぐましき光《ひかり》かな。
袂《たもと》をだいて木によれば
[#改丁、挿し絵入る、115]
[#改丁]
やぶれておつる文《ふみ》がらの
またつくろはむすべもがな。
わすれな草《ぐさ》よ
なれが名《な》を
なづけしひとも泣きたまひしや。
[#改ページ]
夏のたそがれ
タンホオルの鐘《かね》が
さはやかになりいづれば
トラピストの尼《あま》は
こころしづかに夕《ゆふべ》の祈祷《いのり》をささげ
すぎし春《はる》をとむらふ。
柳屋《やなぎや》のムスメは
[#改丁、挿し絵入る、119]
[#改丁]
はでな浴衣《ゆかた》をきて
いそいそと鈴虫《すゞむし》をかひにゆく
――夏のたそがれ。
[#改ページ]
うしなひしもの
夏の祭《まつり》のゆふべより
うしなひしものもとめるとて
紅提燈《べにちやうちん》に灯《ひ》をつけて
きみはなくなくさまよひぬ。
[#改ページ]
芝居事
雪のふる夜のつれづれに
※[#「※」は「女へん+弟の下半分のような字」、123−5]《あね》の小袖《こそで》をそとかつぎ
‥‥‥でんちうぢやはりひじぢや
しまさんこんさんなかのりさん‥‥
おどりくたびれ袖萩《そではぎ》の
肩に小袖をうちかけて
なみだながらの芝居事《しばゐごと》
「さむかろうとてきせまする」
このまあつもる雪わいの。
[#改丁、挿し絵入る、125]
[#改丁]
花束
ありのすさびに
花をつみてつがねたれど
おくらむひともなければ
こころいとしづかなり。
されどなほすてもかねつつ
ゆふべの鐘《かね》をかぞへぬ。
[#改ページ]
たそがれ
たそがれなりき。かなしさを
そでにおさへてたちよれば
カリンの花のほろほろと
髪《かみ》にこぼれてにほひけり。
たそがれなりき。路《みち》をきく
まだうら若き旅人《たびびと》の
眉《まゆ》の黒子《ほくろ》のなつかしく
後姿《うし
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