マ》 che`re《シェール》〕(親愛なる友よ)、どうして舞踏會へ行くのがあんなに嬉しいのか、さつぱり分らないわ。ソフィーさまが舞踏會からお歸りになるのは、いつも朝の六時ごろで、たいてい蒼白めて窶れきつた顏をしていらつしやるところを見ると、お可哀さうに、きつと舞踏會では何んにも召しあがらないらしいのよ。正直なところ、そんな苦しい眞似は迚もあたしには出來ないわ。だつてさ、蝦夷山鳥の入つたソースとか、鷄肉《とり》の翼下《はねした》のローストでも食べさせて貰へなかつたら……それこそ、あたし、どうなるか分らないと思つてよ。お粥にソースをかけたのだつて美味《おい》しいわ。でも人參だの、蕪だの、食用薊なんてものは――ちつとも美味《おい》しいものぢやないわ。』
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おつそろしく斑《むら》のある文章だ! 一目で人間の書いたものでないことが分つてしまふ――初手《はな》はちやんとまとまつてゐたが、末の方で犬式に足を出してしまつてゐらあ。どれ、もう一つの方のを讀んで見よう。ちと長つたらしいな。ふむ! 日附がないや。
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『まあ、ちよいとフィデリさん、何となく春めい
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