て來たわねえ! あたし何だか胸がどきどきして、まるでしよつちゆう誰かを待つてるやうな氣持ちなの。しつきりなしに耳の中でわんわん音がするので、あたしよく片足をあげては立ちどまつて扉《と》の外に聽耳をたてるのよ。あたしね、あんただから打明けるのだけれど、ずゐぶん、いろんな牡犬《をとこ》につけまはされてゐるの。よくあたし窓の上へあがつては、品さだめをしてやるわ。中にはほんとうにいやな醜犬《ぶをとこ》もゐるのよ! 一匹なんか、とても不恰好な番犬で、お話にならない馬鹿でさ、その馬鹿だつてことがちやんと顏に書いてある癖に、いやに勿體らしくのそりのそりと往來を歩きながら、自分をひとかどの偉《えら》さまだと自惚れて、さも皆んなが惚れ惚れと眺めでもするやうに思つてゐるのよ。ちよつ、お生憎さま! あたしなんか、てんで見向きもしてやらないわ――なんの、そんな奴は眼中にもないといつた調子にさ。それから時々、お部屋の窓さきへ、とても怖いグレート・デンが一匹やつてくるのよ! どうせあんな不器用な奴にそんな氣のきいた眞似は出來つこないけれど、もし後足で立ちあがつたなら、ソフィーさまのお父さまより、まるまる首だけは高
前へ
次へ
全57ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング