だらう。寢室も覗いて見たい……そこは屹度、不思議の國だ、いや、天國にだつてないやうな樂園に違ひないと思ふ。あの方が臥所《ふしど》からお起きになつて、雪のやうに白い靴下をお穿きになるため、あの可愛らしいおみ足をおのせになる足臺も見たい……。おつと、いけない! いけない! いけない! 何も言ふまいぞ……内證々々。
 だが今日は、あのネフスキイ街で耳にはさんだ、くだんの小犬の立話を思ひ出したので、急に夜が明けたやうな氣持になつた。『ようし、』と、おれは心にうなづいた。『今こそ何もかも突きとめてくれるぞ。それには先づ第一に、あのやくざな犬どもが取り交はしたといふ手紙を押收しなければならない。それさへ見れば、何か手がかりを掴むことが出來よう。』ありやうを言へばおれは一度メッヂイを手もとへ呼んで、奴にかう言はうとしたのだ。『なあ、メッヂイや、そらかうして今はおれとお前と二人きりだが、それでもまだ氣づかひなら、扉を閉めもしようさ、さうすれあ誰にも見つかりつこないといふものだよ。そこで一つ、お孃さんのことでお前が知つてることを洗ひざらひ何もかもぶちまけて話して呉れないか――一體お孃さんはどんな樣子で、
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