とつ知りたいものだて。かういふ方たちの生活や、あのさつぱり譯の分らぬ繁文褥禮や、宮中むきの作法などを、まのあたり覗いてみたいものだ。いつたい御自分たちのあひだで不斷どんなことをしたり言つたりしていらつしやるのか――そいつがおれには知りたいのだ! おれは何遍も閣下に話しかけてみようと思つたことはあるのだけれど、ただ忌々しいことには、舌めがどうにも言ふことを聽きをらん。戸外《そと》はお寒うございますとか、お暖かでございますとだけは言へても、それから先きが頓とつづかないのだ。客間も覗いて見たいのだけれど、ただ時たま扉があいてゐることがあるだけで、客間のむかふにもまだ一つお部屋があるやうだ。いやはや、何といふ豪勢な飾りつけだらう! 鏡にしても陶磁器にしても、素晴らしいものばかりだ! 令孃のお居間になつてゐる、あの奧のお部屋――おれは、あれが覗いて見たいのだ! 奧の婦人室、そこには屹度いろんな小瓶だの玻璃器だのが並べてあるだらうし、息をかけるのも氣がとがめるやうな花などもあるだらうし、また、そこにはあの方の衣裳なども脱ぎすててあつて、それが衣裳といふよりは空氣みたいにふんはりと散らばつてゐること
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