美しい娘におせじをつかって暇をつぶし、またある者は――これが一番多いのだが――安直に自分の仲間のところへ、三階か四階にある、控室なり台所なりのついた二間ばかりの部屋で、食事や行楽をさし控えてずいぶん高い犠牲の払われたランプだの、その他ちょっとした小道具といったようなものを並べて、若干流行を追おうとする色気を見せた住いへやってゆく――要するにあらゆる役人どもがそれぞれ自分の同僚の小さな部屋に陣取って、三文ビスケットをかじりながらコップからお茶をすすったり、長いパイプで煙草の煙を吸い込みながら、カルタの札の配られるひまには、いついかなる時にもロシア人にとって避けることのできない、上流社会から出た何かの噂話に花を咲かせたり、何も話すことがないと、*ファルコーネの作った記念像の馬のしっぽが何者かに切り落とされたといってかつがれたと伝えられている、さる司令官の永遠の逸話をむし返したりしながら*ヴィストにうち興じている時――要するに、この誰も彼もがひたむきに逸楽に耽っている時でさえ、アカーキイ・アカーキエウィッチはなんら娯楽などにうきみをやつそうとはしなかった。ついぞどこかの夜会で彼の姿を見かけた
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