ツク》で、彼が前《さき》に打つたのは六ではなくて后牌《クヰーン》だつたのだ。
「ええ、なるほどおれは馬鹿ぢやつたわい! 切札の王牌《キング》! どうぢや! 取つたか? 猫の後裔《すゑ》め! |A牌《ポイント》はいらんか? |A牌《ポイント》! 兵牌《ジャツク》! ……」
物凄い雷霆が鳴りはためいた。妖女《ウェーヂマ》はぢだんだ踏んだ。すると、どこからともなく、まともに祖父の顔をめがけて帽子が飛んで来た。
「いんにや、これだけぢやあ足りないぞ!」と、俄かに活気づいた祖父は、帽子をかぶりながら、喚いた。「おれの駿馬を即刻この場へ出しをればよし、さもなければおれは、たとへこの穢らはしい場所で雷に撃たれやうとどうしようと、汝《うぬ》たちに対つてあらたかな十字架で十字を切らずには措かぬぞ!」
そして今にも彼が手をあげようとした時、不意にすさまじい物音がして、祖父の面前へ骸骨の馬が現はれた。
「そら、これがお前さんの馬だよ!」
それを見ると、哀れな祖父は、たわいない稚な子のやうに、おいおいと声をあげて泣き出した。古馴染の愛馬に対する憐愍の情に堪へなかつたのぢや!『どんな馬でも一頭、手前たちの
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