髭面に素早く切札を叩きつけた。
「おつと、どつこい! それあ哥薩克らしくないやり方だよ! いつたいお前さん、なにで切りなさるのぢや?」
「なにで切るとはなんぢや? いはずと知れた、切札で切つたのぢや!」
「ひよつとしたら、お前さんがたの方ではそれが切札なのかもしれないが、妾たちの方では、さうぢやないんだよ!」
 見れば、なるほどそれは普通《ただ》の牌だ。奇態なこともあるものだ! 今度も負けになつてしまつた。そして妖怪どもは又しても声を張りあげて※[#始め二重括弧、1−2−54]阿房《ドゥーレン》! 阿房《ドゥーレン》!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と喚き立てた。それがために卓子がガタビシ揺れて、骨牌の札が卓子の上で躍りあがつた。祖父は躍起になつて、いよいよ最後の、三囘目の札を配つた。勝負は再び順調に進んだ。妖女《ウェーヂマ》が又しても二二一《ピャチェリク》を揃へた。祖父はそれを殺しておいて、堆牌《やま》から札を取ると、それがどれもこれも切札ばかりだ。「切札!」と叫んで彼は、その札が笊《ざる》のやうに反りかへつたほど力まかせに卓子へ叩きつけた。相手は何にも言はずに普通牌《なみふだ》
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