悪魔の身内がこちらの言ひ分を聴き入れようが入れまいが、兎にも角にも用件を切り出すより他はなかつた。と、醜面《しこづら》の化物たちが耳を※[#「奇+攴」、第3水準1−85−9]てて手をさしだした。祖父はその意を悟つて、持ちあはせの銭を残らず掴み出して、犬にでも呉れてやるやうに、それを一同のまんなかへ投げだした。彼が銭を投げ出すや否や、眼の前の化物どもはごつた返しに入り乱れ、大地がぐらぐらと揺れ動いて、てつきり、これは地獄へ陥ちてしまつたのではないかと思はれるくらゐ――祖父は語るべき言葉も知らなかつたほどである。※[#始め二重括弧、1−2−54]ほい、これあ叶はん!※[#終わり二重括弧、1−2−55]けろけろとあたりを見まはしながら祖父は嘆声をもらした。なんといふ妖怪《ばけもの》どもだらう! どいつもこいつも見られた面《つら》ぢやない。おつそろしい数の妖女《ウェーヂマ》が、まるで降誕祭の頃に降る雪のやうに、うじやうじやと集《たか》つて、それが定期市《ヤールマルカ》へ出かけた令嬢方《パンノチカ》そこのけに、デカデカと飾り立てて粧しこんでゐる。そして、そこにゐるほどの妖女《ウェーヂマ》といふ妖
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