ひぞ私は、」と、助役がその口尻を捉まへた。「村長が代官に昼餐を饗応したといふ話は聞き及びませんぢやて。」
「村長にもよりけりさ!」と、さも自慢さうに彼は言つた。その口が少しゆがんで一種の鈍重な、嗄がれた笑ひ、といふよりは寧ろ遠雷の響きに似た声が、その唇から漏れた。「どうぢやらうな、助役さん、かういふ貴賓には各戸から、応分の進物をとどけさせることにしては、雛鶏なり、麻布なり、そのほか何か。……ね?……」
「それあ、さうしなくつちやなりませんよ、是非とも、村長さん!」
「それで、婚礼はいつにするんで、お父《とつ》つあん?」と、レヴコーが訊ねた。
「婚礼だと? うん、その婚礼で貴様に思ひ知らせて呉れるのだけれど!……だが、まあ折角の貴賓の来臨に免じて我慢するとしよう……あす、坊さんを呼んで、貴様たちを結婚させてやる。ええ、どうも仕方がないわい! 几帳面たあどんなものだか、ひとつ代官に見せて呉れるのぢや! それはさて皆の衆、さあ、もう寝《やす》んで下され! 家へ帰つてよろしい!……今日のことにつけても想ひ出すわい、あのわしが……。」かう言ひながら、村長はいつもの癖で、容態ぶつた、意味深長な眼差
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