は手紙が掴まされてゐたのである。※[#始め二重括弧、1−2−54]ああ、おれに読み書きが出来たらなあ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、彼はそれを眼の前であちこちひつくり返して見ながら、呟やいた。その刹那、彼のうしろで物音がした。
「怖《こは》がるこたあない、いきなり彼奴を引つつかまへちまへ! 何をびくびくしとるんだ? 味方は多勢だぞ。確かにこいつは悪魔ではなくて人間だ!……」かう、村長が部下に向つて叫んだ。それと同時に、レヴコーは幾人もの腕にとり拉《ひし》がれるのを覚えたが、中には恐怖のためにぶるぶる顫へてゐるのもあつた。「畜生め、その怖ろしい仮面《めん》を脱ぎをれ! 人を愚弄するのも、もういい加減にしくされ!」彼の襟髪を掴んでかう言つた村長は、相手の顔に眼をそそぐと共に仰天してしまつた。「これあ、レヴコーだ! わしの忰だ!」彼は驚ろきのあまり、たじたじと後ずさりをして、ぐつたり手を落しながら喚いた。「それぢやあ、貴様だつたのか、くたばりぞこなひめ! この碌でなし野郎めが! わしは又、どこの悪党が皮外套《トゥループ》を裏がへしになど著てわるさをさらしをるかと思つたのに! みんな
前へ
次へ
全74ページ中66ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング