、1−2−55]
白い手がさしのべられると、その顔はいとも麗はしい光りを帯びて輝やきだした……。不思議な胸さわぎと、堪へがたい胸の動悸を覚えながら、彼はその手紙を受け取つた……と、そこで目が醒めた。
六 目醒めて
※[#始め二重括弧、1−2−54]おれはほんとに眠つてゐたのだらうか?※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、小さい丘から立ちあがりながら、レヴコーはひとりごちた。※[#始め二重括弧、1−2−54]まるで夢とは思へないくらゐ、まざまざとしてゐたつけなあ!……不思議なことだ、まつたく不思議なことだ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう、彼はあたりを見まはしながら繰りかへした。彼の頭のうへにかかつてゐる月が、もう真夜中だといふことを物語つてゐた。どこもかしこも森閑としてゐる。池の面からは冷気が吹きわたり、その上には鎧扉を鎖したままの古い地主館《ぢぬしやかた》がいたましげに聳え立ち、はびこるにまかせた青苔や雑草は、すでに永の年月ここに人の住はぬことを物語つてゐる。ふと彼は、夢のあひだぢゆう痙攣的に握り緊めてゐた片方の手を開くと同時に、あつと叫んだ。――事実そこに
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