その女は他の処女《をとめ》を追ひまはして、獲物を捕へようとして四方八方へ飛びついて行つた。この時レヴコーは、彼女のからだが他の処女《をとめ》のやうには透きとほつて見えないことに気がついた。彼女のからだの中にはどこか黒ずんだところがあるのだつた。突然、叫び声があがつた。鴉が列のなかの一人にをどりかかつて、それを捉まへたのだ。レヴコーはその女の爪が剥きだされて、兇悪な喜びの色が顔に輝やいたやうに思つた。
「妖女《ウェーヂマ》だ!」と、彼は急にその女を指さしながら、館《やかた》の方を振りかへつて叫んだ。
 令嬢《パンノチカ》はにつこり微笑《わら》つた。すると処女《をとめ》たちは叫び声をあげながら、今まで鴉になつてゐた女をつれて、行つてしまつた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]まあ、どうしてこのお礼をしたら好いでせうね、若い衆さん? あんたがお金なんか望んでゐないことは分つてゐますわ。あんたはハンナを想つてゐらつしやるのだけれど、むごいあなたのお父さんが結婚の邪魔をしてゐるのでしよ。でもこれからは邪魔をしなくつてよ。この手紙を持つて行つて、お父さんにお見せなさいな……。※[#終わり二重括弧
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