。その声には何か名状しがたい感動的な響きがこもつてゐた。※[#始め二重括弧、1−2−54]若衆さん、あたしの継母《はは》を見つけて頂戴な! あたし、あなたになんだつて吝まずに差しあげますわ。きつと、お礼をしますわ。どつさり、いろんな立派なものをお礼に差しあげますわ! あたし、絹糸で刺繍《ぬひ》をした袖緊《そでじめ》や、珊瑚や、頸飾をもつてますのよ。宝石を鏤めた帯をあなたにあげませうね。金貨もありますわ……。若衆さん、あたしの継母《はは》を捜して頂戴な! あたしの継母《はは》は、怖ろしい妖女《ウェーヂマ》でしたの。あの女《ひと》のために、あたし娑婆では安らかな思ひをすることが出来ませんでしたの。あの女《ひと》はあたしを卑しい端女《はしため》のやうにおひ使ひましたのよ。この顔を見て頂戴、あのひとが悪魔の力であたしの顔の色ざしを奪ひ取つてしまひましたの。あたしの頸筋を見て頂戴、あのひとの鉄のやうな爪でひつかかれた青|紫斑《あざ》が洗つても洗つても消えないの! あたしの白い足を見て頂戴、あたしは絨毯の上でないばかりか、焼石のうへや、濡れた土や、荊棘《いばら》の道を、ひたむきに歩きまはつたの!
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