眼はといへば――見て頂戴――涙で曇つて、なんにも見えないの! 見つけて頂戴な、若衆さん、あたしの継母《はは》を見つけて頂戴な!……※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 その声が急にうはずりかけたかと思ふと、彼女は口をつぐんでしまつた。涙がその蒼白い顔をつたつて流れおちた。憐憫と哀愁に充ちた重苦しい感情が、若者の胸もとへこみあげた。
「あなたのためなら、どんなことでもしますよ、お嬢様《パンノチカ》!」と、こころを動かされて彼が答へた。「でも、その女《ひと》を何処で捜し出したらいいでせう?」
※[#始め二重括弧、1−2−54]そら御覧なさいな、あすこを御覧なさいな!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と口ばやに処女《をとめ》が言つた。※[#始め二重括弧、1−2−54]あの女《ひと》はあすこにゐるのです! あの岸のうへで、あたしの仲間の乙女たちと円舞《ホロヲード》を踊りながら、お月様の光りでひなたぼつこをしてゐますの。けれどあの女《ひと》は悪賢こくて狡いの。自分もやつぱり水死女の姿に化けてゐますのよ。でもあたし知つててよ、あの女《ひと》がここにゐる気配がちやんと分るのですもの。あの女《ひと
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