》が窓に現はれて、ついで愛くるしい顔がのぞき、生々とした二つの眼を栗色の髪の波だつあひだから静かに輝やかせながら、臂杖をついた。見ると彼女は微かに首を振り、手拍子を取りながら微笑んでゐる……。彼の胸は不意に鼓動しはじめた……。水が顫へだした。そして窓は再びとざされた。静かに彼は池を離れて館《やかた》に眼を移した。と、陰気な鎧扉があけはなたれ、窓硝子は月光をうけて輝やいてゐる。※[#始め二重括弧、1−2−54]人の言ふことは信用《あて》にならぬものだ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]と彼は心のうちで思つた。※[#始め二重括弧、1−2−54]家は新らしいし、塗料《いろ》だつて、まるでけふ塗つたばかりのやうに艶々してゐるぢやないか。ここには誰か住んでゐるんだよ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]そこで彼は無言のまま、傍ら近く歩みよつて見たが、家のなかはひつそり閑としてゐる。素晴らしい小夜鳴鳥《ナイチンゲール》の唄がはげしく、響き高く、相呼応してわきおこり、それが疲れと、ものうさに声をひそめるかと思ふと、螽※[#「虫+斯」、第3水準1−91−65]《きりぎりす》の翅を擦る音や、鏡のやうな
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