パイプ》を口から離すなり、ぱつと煙の雲を吐き出してから、言つた。「そんな手合は万一の場合に備へて酒倉のなかに繋いでおくのが先づ上分別だが、栄福燈の代りに樫の樹の天辺にひつ懸けておけば、申し分なしだて。」
蒸溜人《こして》にはこの駄洒落が、われながら上出来だつたと思はれたので、他人《ひと》からの讃辞も待たずに、さつそく嗄がれた高笑ひをあげて、われから悦に入つたものである。
その時、一同は小さな、殆んど地面へ横倒しになりかかつてゐる小屋へと近づいた。一行の好奇心はいよいよ募つて、彼等は戸口へ犇々と押し寄せた。助役は鍵を取り出して、錠のあたりでガチャガチャ音を立ててゐたが、それは自分の家の長持の鍵だつた。一同はいよいよ我慢がならなくなつた。助役は衣嚢《かくし》へ手を突つこんで鍵を捜しはじめたが、なかなかそれが見つからないのでぶつぶつと呟やいた。
「あつたあつた!」たうとう彼は半身をかしげて、縞の寛袴《シャロワールイ》についてゐた大きな衣嚢《かくし》の底から鍵を取り出しながら叫んだ。
その声を聞くと同時に、一同の心臓はあたかも一つに融け合つてしまつたものの如く、その厖大な心臓がおそろしく
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