ちで、あの皮外套《トゥループ》を裏がへしに著た暴れ者を捕へたなどと仰つしやつたのは、何かの間違ひだつたことは、お認めになりませうな?」
「その裏がへしの皮外套《トゥループ》を著た畜生といへば、ほかの奴らの見せしめに、足枷でも掛けて、思ひきり懲らしめてやることぢや! 官権《おかみ》の力がどんなものか思ひしらしてやることぢや! そもそも村長たる者は皇帝《ツァーリ》からでなくて誰から任命されてゐると思ふとるのぢや? あとで他の奴らも懲らしめて呉れよう。わしはちやんと憶えとる、あの碌でなしの暴れ者どもが、わしの野菜畠へ豚を追ひこんで、胡瓜やキャベツをさんざん食ひ荒させたことも、あの悪魔の忰どもが、わしのうちの麦搗きを拒んだことも、それから忘れもせぬが……。いや、そいつらのことは兎も角、わしはその、裏返しの皮外套《トゥループ》を著た悪党がいつたい何者か、是非ともそれを検べなくちやあならんのぢや。」
「そいつは、よつぽどすばしつこい野郎だと見えるて!」と、以上の会話のあひだぢゆう、まるで攻城砲に煙硝を填めでもするやうに、ひつきりなしに煙草の煙を頬に詰めこんでゐた蒸溜人《こして》が、例の短かい煙管《
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