え、もう疾つくにさうしなきやならなかつたのですよ、村長さん!」
「あの馬鹿者どもめが、増長しをつて……。はあて? 往来で義妹《いもうと》の声がしたやうぢやが……。馬鹿者どもめ、つけあがりをつて、わしを同輩かなんぞのやうに思つてけつかるのぢや。このわしを奴らの仲間の、普通《なみ》の哥薩克だとでも考へてけつかるのぢや!……」その言葉についで発せられた軽いしはぶきと、額越しにあたりへ投げられた一瞥とから、村長が今や、何か勿体らしい話を持ち出さうとしてゐることが予測された。「一千……と、ええ、この面倒くさい年号と来た日にやあ、ぶち殺されたつて、すらすら言へるこつちやないが、さて……年に、時の代官レダーチに対して、哥薩克のうちから最も才幹ある者をひとり選び出せといふ命令が下つたのぢや。おお!(この『おお』といつた時に村長は指を高くさしあげた)最も才幹ある者を! 女帝陛下の供奉のために択べといふ命令なのぢや。わしはその時に……。」
「仰つしやるまでもありませんよ、村長さん! それはもう誰でも知つとることです! あなたが廷室の恩寵に浴されたといふ話なら、みんなが知つてをります。時に、手前の申し分が勝
前へ
次へ
全74ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
平井 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング