ンチューグから*ロムヌイまでのあひだに、造り酒屋は二軒とはなかつたでがせうが、それが当節ぢやあ……。あの忌々しい独逸人どもが何を発明しをつたか、お聞きなすつたかい? なんでも人の話ではね、今に奴らは、堅気な基督教徒のやうに薪を使はないで、何か怪しげな蒸気でもつて酒を蒸溜《こ》すやうになるつてえことですぜ……。」かう言ひながら、蒸溜人《こして》は感慨ぶかげに卓子の上へ眼を落して、そのうへに載せた自分の両手を眺めた。「いつたい、蒸気《ゆげ》をどうするのか――いや、さつぱり解《げ》せないこつて!」
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クレメンチューグ ポルタワ県下の同名の郡の首都で、ドニェープルに臨んだ河港。穀類、木材の集散地。
ロムヌイ ポルタワ県下の同名の郡の首都、ドニェープルの支流スーラ河に臨み、煙草の産地として有名なところ。
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「なんちふ阿房どもぢやらう、その罰当りの独逸人どもあ!」と、村長が言つた。「畜生ども、ほんとに棒うちを喰らはせて呉れるのに! 蒸気で物が煮えようなんて、つひぞ聞いたこともないて。それぢやあ、ボルシチひと匙口い持つて行つても、若い
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