、浮かれよ騒げよだ!」と、例のずんぐりしたおつちよこちよいが、足拍子を取つて手を拍ちながら言つた。「なんて豪気だ! なんて自由だ! 乱痴気さわぎが始まるてえと、遠い昔に返つたやうだぞ。胸がせいせいして、気持がよくつて、心はまるで天国にゐるやうだ。そうら、みんな、浮かれた浮かれた!」
かうして若者たちの一団は騒々しく往還を突進して行つた。その喚き声に夢を醒された信心ぶかい老婆たちは、小窓の戸をあげて、眠さうな手つきで十字を切りながら、『また、若い衆たちが巫山戯まはつてゐるさうな!』と呟やくのだつた。
四 若者たちの騒擾
往還のはづれにただ一軒きり、まだ灯影のさしてゐる家があつた。それが、村長の住ひである。村長はもうとつくに夕餉をすましてゐたから、平素《いつも》ならてつきり遠の昔に寝こんでゐる時分であつたが、ちやうど今、自由哥薩克のあひだに手頃な地所をもつてゐる地主が酒蒸溜場《さかこしば》を建てるためによこしてゐる蒸溜人《こして》が彼のところへお客に来てゐたのだ。客は聖像したの上座に坐つてゐた――それは肥《ふと》つた背の低い男で、燃えきつて灰になつた煙草がぼろぼろ転げ出る
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