れの拳固の堅さを味はつて見くさるがいい!」
かうまで言はれては、レヴコーも最早このうへ憤りを抑へてゐることが出来なかつた。二た足三足その男の方へにじりよるなり、渾身の力をこめて、そいつの横つ面に一撃を加へようとして拳しを振りあげた。その拳しにかかつては、如何に頑丈さうに見えてもその見知らぬ男は恐らくひとたまりもなく、立ちどころに打ちのめされたことだらう。ところが、ちやうどその時、月光がさつとこの男の顔を照らした。と、レヴコーはその場に棒立ちに立ちすくんでしまつた――眼の前に立つてゐるのは自分の父親ではないか。思はずかぶりを振つて、喰ひしばつた歯の隙間から微かに呻き声をもらしたのを見ただけでも、その驚愕のほどが察しられた。その時、一方ではさらさらといふ衣ずれの音がして、ハンナが急いで家の中へ身をひるがへすと、ぱたんと扉を閉めてしまつた。
「さやうなら、ハンナ!」この時ひとりの若者が忍び寄りざま、さう叫んで村長に抱きついたが――こはい口髭にぶつかると、胆をひやして後ろへ飛びすさつた。
「さやうなら、別嬪さん!」と、別の一人が叫んだ。しかし今度は村長の手ごはい肘鉄砲を喰らつて、どんでんがへ
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