をひきむしるなんて、口はばつたいことをほざきをるなあ、いつたいどんな野郎だか、ひとめ見てやりたいものだ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう口の中で呟やきながら、レヴコーは一語も聴きもらすまいと一心になつて頸を伸ばした。しかし、その見知らぬ男は極めて低い小声で話しつづけてゐたので、何ひとつはつきり聴き取ることが出来なかつた。
「まあ、あんた、よくも愧かしくないのねえ!」と、その男の言葉の終るのを待つて、ハンナが言つた。「うそ仰つしやい。あんたはあたしを欺かしてらつしやるんだわ。あんたがあたしを愛してなどいらつしやるもんですか。あたし、あんたに想はれてゐようなんて、夢にも思はなくつてよ!」
「分つとる。」と、背の高い男が言葉をついだ。「レヴコーの奴がいろいろと碌でもないことをお主に吹つこんで、お主の心を迷はせをつたのだらう。(茲でその見知らぬ男の声に若者はどこか聞き覚えがあるやうに思つた。)ようし、あのレヴコーめに、きつと思ひ知らせてやるぞ!」かう、やはり同じやうな調子で見知らぬ男はつづけた。「彼奴は、おれが彼奴のいたづらを、なんにも知らんと思つてうせるのだ。あの碌でなしめが、今にお
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