えてゐる……。※[#始め二重括弧、1−2−54]いつたい、どうしたつていふのだらう?※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう思ひながら、もう少し近く忍び寄ると彼は一本の樹の後ろへ身をかくした。まともに月光を浴びてこちらを向いてゐる少女《をとめ》の顔が輝やいて見える……。それはハンナだ! が、彼の方へ背中をむけて立つてゐる、あの背の高い男は何者だらう? 彼はじつと眼を見はつて、ためつすがめつしたが、駄目だつた。その男は頭から足の先まで蔭影《かげ》にかざされてゐるのだ。ただほんのりと前から光りをうけてはゐるが、レヴコーがちよつとでも前へ出ようものなら、いやでも自分の躯《からだ》を明るみへ曝さなければならぬ。彼はそつと樹によりかかつたまま、その場に立ちつくさうと肚をきめた。と、少女《をとめ》の口から明らかに自分の名がもらされた。
「なに、レヴコー? レヴコーなんざ、まだ青二才だあな!」と、嗄がれた低い声で、その背高《のつぽ》の男が言つた。「もしも、おれとお主の前で、彼奴に出つくはすやうなことがあつたら、彼奴の前髪を掴んで引きむしつてくれるわい。」
※[#始め二重括弧、1−2−54]おれの前髪
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