つもりだが、酔つぱらひのカレーニクはまだ道程《みち》の半ばにも達しないで、なほもその呂律のまはらぬ、だらしのない舌でしか口にのぼすことの出来ないやうな択《よ》りぬきの悪態で、くどくどと村長を罵りつづけてゐる。

     三 思ひもかけぬ敵手 策謀

「ううん、嫌だよ、おらあ嫌だ! 君たちももうそんな馬鹿騒ぎはいい加減にきりあげたらどうだい? よくもそんな無茶なことに厭きないんだなあ! でなくつたつて、おれたちはいい加減しやうのないやくざ者に見られてるんぢやないか。もう温なしく寝た方がいいよ!」かうレヴコーは、自分を何か新らしい悪戯にさそふがむしやら仲間に向つて答へた。「さやうなら、みんな! お寝み!」そして足ばやに仲間からはなれて、往来をすたすたと歩き出した。
※[#始め二重括弧、1−2−54]あの眼もとの涼しいおれのハンナは、もう寐てゐるかしら?※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう思ひながら、彼は、われわれにはすでに馴染の、くだんの桜の木立にかこまれた茅屋《わらや》へと近づいた。と、ひつそりとした中に低い話声が聞える。レヴコーは立ちどまつた。木の間がくれにルバーシュカが仄白く見
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