らになんの関係があるだ?」傍に寝てゐたジプシイが、伸びをしながら呟やいた。「よしんば、洗ひざらひ身うちの者の名を呼んだにしてからがさ!」
「だけんど、なんだか咽喉を緊めつけられるやうな声だつたでねえか!」
「人が寝言に何をいふか知れたもんでねえつてことよ!」
「それあともかく、ちよつと見て来るだけでも見て来てやらにやあ。おめえ一つ火を燧《う》つてくんなよ!」
片方のジプシイはぶつくさ言ひながら立ちあがつて、二度ばかり稲妻のやうな火花を浴びると、口をとんがらして火口《ほくち》を吹いてゐたが、やがてカガニェーツ――それは陶器のかけらに羊の脂をたたへたもので、小露西亜では普通一般の燈火である――を手にして、道を照らしながら歩き出した。
「ちよつと待つた! ここになんだかうづくまつてるだよ。燈火《あかり》をこつちい見せろよ!」
この時、また幾人かの連中が彼等に加はつた。
「何がうづくまつてるだよ、ウラース?」
「なんでも人間が二人らしいだが、一人が上に乗つかつて、一人が下になつてるだ。はあてな、どつちが悪魔だか、見当がつかねえだよ!」
「そいで、上に乗つてるなあ、なんだい?」
「女《ばば》
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