口あふつて、またもや続きを話しはじめた。「ところで、その猶奴《ジュウ》は気を失つてしまつただよ。だが、豚どもは竹馬みたいにひよろ長い脚で窓を跨いで中へ入えると、いきなり、三本|縒《より》の革鞭を振りあげて、あの横梁《よこぎ》よりも高く猶奴《ジュウ》が跳ねあがつたくれえ、こつぴどく野郎を擲りつけて正気に戻しただ。するてえと、猶奴《ジュウ》のやつめ、這ひつくばつて何もかも白状してしまつただよ……。だが、長上衣《スヰートカ》をさつそく取り返すつてえ訳にやあ行かなかつただ。なんでも道中でその旦那衆からジプシイが長上衣《スヰートカ》を盗んで、それを女商人に売りつけをつただ。そのまた女商人がそれを持つてこのソロチンツイの定期市《ヤールマルカ》へやつて来たちふ訳だが、それ以来、その女商人の商品《しな》がさつぱり捌《は》けなくなつてしまつただよ。だもんで女商人はひどくそれを不思議に思つただが、やがてそれが何もかも、てつきりその赤い長上衣《スヰートカ》のせゐだと気がついただ。成程さういへば、それを著るてえと妙にからだが緊めつけられるやうな気がするだよ。そこで前後の考へもなく、いきなりそれを火のなかへおつ
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