おいらはかつきり一年たつたら、この長上衣《スヰートカ》を請け出しに来るだから、それまでちやんとしまつといて呉んろよ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]――さう言つておいて掻き消すやうに姿を隠してしまつただ。猶太人がよくよくその長上衣《スヰートカ》を見るてえと、生地はとてもとてもミルゴロド界隈で手に入るやうな代物ではなく、そのまた赤い緋の色がまるで燃えたつやうで、じつと見つめちやあゐられねえくらゐ! ところが猶太人め、期限になるまで待つてをるのが惜しくなつただのう。畜生め鬢髪《ペーシキ》を撫で撫で、さる旅の旦那衆にそれをうまく押しつけて、五*チェルヲーネツはたつぷりせしめやあがつただよ。約束の日限なんぞ、猶奴《ジュウ》の野郎すつかり忘れ果ててしまつてゐただ。ところが、ある日の夕方のこと、一人の男が入えつて来て、※[#始め二重括弧、1−2−54]さあ、猶奴《ジュウ》、おいらの長上衣《スヰートカ》を返してもらはう!※[#終わり二重括弧、1−2−55]つて言ふだよ。猶奴《ジュウ》め最初《はな》はまつたく見憶えがなかつただが、よくよく見ればくだんの男なので、てんから思ひもよらぬといつた顔つきを
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