も挫きはなさいませんでして?」さう、ヒーヴリャは気づかはしさうにしやべり立てた。
「しつ! なに大丈夫ですよ、大丈夫ですよ、ハヴローニヤ・ニキーフォロヴナ!」と、やをら立ちあがりながら祭司の息子は、痛さうに、囁やくやうな声で答へた。「ただ、蕁麻《いらくさ》に刺されただけですよ、あの亡くなつた祭司長の言ひぐさではないが、この毒蛇《まむし》みたいな草にね。」
「さあ家《うち》のなかへはいりませう、誰もゐやしませんわ。あたしはまたねえ、アファナーシイ・イワーノ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ、あなたがお腫物《でき》か腹痛《はらいた》で、おかげんでも悪かつたのぢやないかと、お案じしてゐたんですよ。だつて、あんまりお見えにならないんですもの。で、その後おかはりはありませんの? あなたのお父さんはこの頃ぢゆう随分たくさん、いろいろと収入《みいり》がおありなさるつてことですわねえ!」
「いやなに、ほんの些細なものですよ、ハヴローニヤ・ニキーフォロヴナ。うちの親爺は精進期《ポスト》のあひだぢゆうに春蒔麦なら十五袋、稷《きび》の四袋、白麺麭の百個ぐらゐも貰ひましたかねえ。鶏も勘定をしたら、もの
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