よつぽど、じやらつきの名人らしいな! おいらなんざあ、婚礼のあと四日目になつて、やつと、死んだ嬶あのフヴェーシカを抱きよせることが出来たもんだ、それも、介添役の教父《クーム》が口ぞへをして呉れたればこそだ。」
 若者は即座に、愛人の父親を御しやすしと見てとると、胸中ひそかに、如何にして彼を懐柔すべきかについて、思案を凝らしはじめた。
「お父《とつ》つあん、お前《めえ》さんはおいらを知りなさるめえが、おいらはひと目でお前《めえ》さんがわかつただよ。」
「それあ、わかりもしただらうがね。」
「なんなら名前から渾名《あだな》から、何から何まで、ひとつ言つて見せようか。お前《めえ》さんの名前はソローピイ・チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークつていひなさるんだらう。」
「うん、そのソローピイ・チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークはおらだよ。」
「まあ、よつく見ておくれよ、このおいらが分らねえのかなあ?」
「うんにや、どうも見憶えがねえだよ。さう言つちやあなんだが、生涯のあひだに会つて来た人間の面相を、いちいち憶えてなんぞゐられるこつてねえからなあ!」
「しやうがねえなあ、
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