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アルテモフスキイ・グラーク ピョートル・ペトロー※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83](1791―1853)小露西亜の詩人。
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「ひよつと、どうかして、お前《めえ》、ほんとになんぞちよろまかしたんぢやあねえかい?」かう、教父と一緒に繋がれて、藁葺き小舎の中で横になつたまま、チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークが訊ねた。
「お前《めえ》までがそんなことを言ふのかい、兄弟? お袋の眼を盗んで、酸乳脂《スメターナ》をつけた肉入団子《ワレーニキ》を摘んだことよりほかに――それもおいらが十歳《とうを》ぐれえの時の話だが――それよりほかに、つひぞ他人《ひと》さまの物に手をかけたことがあつたら、この手足が干からびてしまつてもええだよ。」
「ぢやあ、なんだつておれたちあこんな酷い目に会ふだね? お前はまだしものことよ、ともかく他人《ひと》の物を盗つたつちふ言ひがかりを受けとるだから。ところが、おいらくれえ不仕合せな者があるだらうか、われとわが牝馬を盗んだなんちふ性《たち》の悪い言ひがかりをされてさ? 屹度これあ、なんでも前《さき》の世からの因果で、こんな不運な憂目を見ることだべえなあ!」
「情けねえことぢや、まつたくみじめな、頼りない身の上ぢやよ!」
 かういつて教父同士は、めそめそと啜りあげて泣きだした。
「これあまた、どうしたといふだね、ソローピイのお父《とつ》つあん?」と、ちやうどその時そこへ入つて来た、グルイツィコが声をかけた。「いつたい、どいつがお前さんを縛つたんだね?」
「あつ! ゴロプペンコだ、ゴロプペンコだ!」と、ソローピイは嬉しさのあまり叫び出した。「おい、兄弟《きやうでい》、これが、そら、お前に話したあの当人だよ。それあ見ものだぞ! お前の頭よりでつかいくれえのコップを、おらの眼のまへで顔ひとつ顰めねえで呑み乾しただもの。それが嘘だつたら、この場でおいらに天罰が降る筈だ!」
「ぢやあ、兄弟《きやうでい》、なんだつて、お前はそねえな素晴らしい若い衆に恥いかかしただ?」
「この態《ざま》あ見てくんな。」さう、チェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークはグルイツィコの方へ向きなほつて言葉をつづけた。「てつきり、お前に恥いかかした罰《ばち》が当つただよ。どうか勘弁してく
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