カ》へやつて来てゐる百姓のチェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークの牝馬を盗みやあがつたんだ?」
「お前さんがたは気でも狂つただかね、若い衆たち! どこの国にわれとわが物を盗む阿呆があるだ?」
「古い手だよ! 古い手だよ! ぢやあ、なんだつて手前はまるで自分の踵へ悪魔が追ひつきかかりでもしたやうに、矢鱈無性に逃げ出しやあがつたんだ?」
「逃げもせにやあなるめえて、悪魔の着物が……。」
「ええ、こいつめ! その手でおいらを誤魔化さうたつて駄目だぞ。待つてろ、今に委員から二度と再びそんなペテンで人を驚かせないやうに、きつと成敗があるから。」
「とつ捉まへろ! そいつをとつ捉まへるんだ!」さういふ叫び声が反対がはの町端れであがつた。「そうら、そこへ逃げてゆくぞ!」
やがて、我がチェレ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ークの眼前へ、後ろ手にいましめられて、数名の若者に引つ立てられた、見るも痛ましい教父《クーム》の姿が現はれた。
「稀代《けつたい》なこともあるものさ!」と、そのなかの一人が言つた。「この、ひと目で泥棒だと分る悪党の言ひ草を聴いてくれ。どうして狂人《きちがひ》みてえに突つ走つたんだと訊ねると、その答へがかうだ――『嗅煙草を喫はうと思つて衣嚢《かくし》へ手を突つこんだら、嗅煙草入の代りに、悪魔の※[#始め二重括弧、1−2−54]長上衣《スヰートカ》※[#終わり二重括弧、1−2−55]のきれつぱしが出てきて、そいつが赤い焔をあげて燃えあがつたから、後をも見ずに駈けだしたんだ』とさ!」
「おやおや! さては、こ奴ら二人は、てつきりひとつ穴の狐に違えねえぞ! 両方いつしよに繋いでおくことにしよう。」
十二
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※[#始め二重括弧、1−2−54]なんで、あなた方はかう私を責めなさるんで?
※[#始め二重括弧、1−2−54]どうしてこんなにいぢめなさるんで?※[#終わり二重括弧、1−2−55]と哀れな彼が言つた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]何をそんなにこの私をからかひなさるんで?
※[#始め二重括弧、1−2−54]ええ何を、何を?※[#終わり二重括弧、1−2−55]さういつて、ぼろぼろと苦い涙をこぼしながら、手を拱ぬいた。
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――*アルテモフスキイ・グラーク『旦那と犬』より――
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