んばつて、すこし前こごみに首をうつむけてな、豌豆いろの*カフターンの後ろ衣嚢《かくし》へ手を突つこんで、漆塗りの丸い嗅煙草入を引つぱり出すなり、その蓋に下手くそに描いてある何処か異国の大将の面《つら》に指弾きを一つ喰はせておいて、消炭と独活《うど》の葉とをまぜて擂つた嗅煙草をたつぷり一つまみ摘んだが、その手をばいやに気取つて鼻の方へ持つて行つたかと思ふと、その煙草を残らず、すうつと、拇指ひとつ鼻にふれずに宙で吸ひこんでしまつた――が依然として口をきかない。別の衣嚢《かくし》へ手を突つこんで、やをら青い碁盤縞の木綿の手巾《ハンカチ》を取りだした時、はじめて、※[#始め二重括弧、1−2−54]豚に真珠さ……※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、諺めいたことを口のなかで呟やいただけぢやつた。※[#始め二重括弧、1−2−54]どうやら喧嘩になりさうだぞ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、わたしはフォマ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチの指が徐ろに*馬鹿握《ドゥーリャ》を拵らへようとしてゐるのを見て、さう思つた。ところがいい塩梅に、うちの老妻《ばばあ》が気をきかせて
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