いふ語尾をつけないと虫がをさまらず、匙鋤《ロパータ》をロパトウスだの、女《バーバ》をバブウスだのと言ふ始末。ところで、或る日のこと父親とつれだつて野良へ行きをつたが、この拉典語先生、ふと熊手を見つけると、父親に向つて、『これは、お父さん、こちらの言葉ではなんとか言ひましたつけね?』と訊ねたもんぢや。そしてぽかんと口を開けたまま、熊手の爪のところを踏んづけをつたと思ひなされ。すると、父親の返辞より先きに、熊手の柄がピョンと跳ね返つて来て、息子のおでこにいやといふほど打つかつたものさ!『えい、この忌々しい熊手《グラーブリ》めが!』と、二三尺も上へ跳びあがりながら、片手でおでこをおさへて、先生、悲鳴をあげをつた。『ほんに、こやつめが、――ええくそつ、こやつの親爺が橋のうへから悪魔にでも突き落されやあがればいい、――人の額を打ちやあがつて、おお痛い!』なんと、どんなもので! 奴さん忽ち名称《なまへ》を想い出しをつたではごわせんか! とな。こんなあてこすりが、この凝つた言ひまはしに憂身をやつしてゐる語り手の気に入らう筈がない。先生ひとことも口をきかずに席を蹴立つて部屋のまん中へ出ると、脚をかうふ
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