して、然るべく用を足すと、またもやそれを几帳面に十二折りに折りたたんで、懐中へ仕舞ひこんだものだ。ところで、お客の一人に……いや、この人物は衣裳さへつけさせたら、てもなく陪審員か裁判官と見紛ふほどの貴公子であつたが、よく、かう、鼻の前《さき》へ指を突つ立てて、その指の頭を見ながら喋りだしたものでな――それがまた恐ろしく美辞麗句の羅列で、まるで活版に刷つたものでも読むやうな塩梅式なのぢや! それをおとなしく、じつと聴いてゐようなものなら、いつか此方《こちら》がふさぎの虫にとり憑かれてしまふくらゐで。何が何やら、ぶち殺されたつて解るこつちやない。いつたい何処からあんな文句を寄せ集めて来たものだらう? 或る時、フォマ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチが実に穿つた一口話をこしらへて、この男をあてこすつたものぢや。といふのは――さる役僧について読み書きを習つてゐた一人の学僕が、おつそろしい拉典語きちがひになつて父親のところへ戻つて来たが、こちとらのつかふ正教の言葉さへ忘れてしまつて、どんな言葉にでも※[#始め二重括弧、1−2−54]ウス※[#終わり二重括弧、1−2−55]と
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