んだ! こら、やい、枕の下へ乾草を押し込めといつたら! どうだ、もう馬には水を飲ませたか? もつと乾草だ! ここんとこへ、この脇腹の下へだ! それから掛蒲団をよく直すんだ! さうさう、もう少し! あ、あーつ!……」
茲でグリゴーリイ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは、もう二度ばかり溜息をつくと、直ぐさま部屋ぢゆうに轟ろき渡るやうなおつそろしい鼾をかき出したが、時々猛烈な鼻号を立てたものだから、寝棚に寝てゐた老婆が目を醒まして、不意にキョトキョトとあたりに目を配つたが、何事もないのを見ると、やれよかつたと安心して、再び睡りに落ちた。
翌朝、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチが目覚めた時には、肥大漢《ふとつちよ》の地主の姿はもうなかつた。これが彼の道中で遭遇した、たつた一つの、目覚ましい出来事だつた。それから三日目には自分の所有農園《もちむら》の間近に迫つてゐた。
やがて風車場が翼を振り振り見えはじめ、猶太人がその痩馬を鞭打つて丘の上へ登るにつれて下の方に柳の並木が姿を現はした時、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83
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