は、まるで誰かが捉まへてゐて放さないのか、それとも人ごみの中を掻き分ける時のやうに、両手を振りまはしながら、こちらへ近づくと同時に、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチを抱きかかへて、まづ右の頬を、次ぎに左の頬を接吻した。イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチにはこの接吻がひどく気持がよかつた。といふのは、この見知らぬ男の大きな頬が、彼の唇に柔かい座褥《クッション》の役目をしたからである。
「いやはや、これはどうも、あなた、どうかひとつお心易く願ひたいもので!」と肥大漢《ふとつちよ》は言葉をつづけた。「私もやはりガデャーチ郡の地主でして、然もあなたとはお隣り同士なんで。あなたのウイトゥレベニキ村からは、ほんの五露里も距れてをらぬホルトゥイシチェが私の持村で、姓名《なまへ》はグリゴーリイ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ・ストルチェンコといひますんで。是非とも、是非とも、あなたがホルトゥイシチェへ御来遊下さらなきやあ承知いたしませんよ。今はちよつと急用でいそいでをりますが……。これあどうしたんだい?」と、肘に補布《つぎ》
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