の当つた哥薩克風の長上衣を著た彼の従僕の少年が入つて来て、当惑さうな面持で、食卓の上へ包み物と木箱とを置くのにむかつて、柔和な声で言葉を掛けた。「何だいこれは、何だと?」さう言ひながら、グリゴーリイ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチの声はいつとはなしに段々荒くなつた。「俺がそれを此処へ持つて来いとお前にいひつけたのか、おい? それを此処へ持つて来いと言つたかといふのだよ、恥しらずめ! 俺は鶏を先きにあたためるやうにいひつけたぢやないか、悪党め! あつちへ行つてろつ!」彼は足を踏み鳴らしながら呶鳴りつけた。「待て、化物野郎! 罎の入つとる小函は何処にあるのだ? さて、イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ!」と、彼は盃に浸酒《ナストイカ》をなみなみとついで、言葉をつづけた。「どうか一つ、持薬がはりにおやりなすつて!」
「いや、実のところ、から駄目なんでして……もうやりましたので……。」イワン・フョードロ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチは、しどろもどろに口ごもりながら、答へた。
「いや、そんなことを仰つしやるものぢやありませんよ、あなた
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