でゐる。夜が明けて日が出ると、その姿は見えなくなる。ただ時たま、山の住民どもは、山腹に何か長い陰影《かげ》がチラチラ映るのに気づくけれど、空は晴れ渡つて、雨雲ひとつ無い。夜の帳が降りかかると、再びその姿は見えはじめ、湖面に影像を落して、その後ろには陰影が顫へながらついて行く。やがて彼は多くの山々を越えて、クリワン山の頂きへと攀ぢ登つた。カルパシヤ山脈のうちで、この峯ほど高い峯はなく、さながら王者の如く群山の上に聳え立つてゐる。その山顛で駒が足を停めると、騎士はひときは深い眠りに沈んだが、見る見る叢雲が降りて彼の姿をつつんでしまつた。

      十三

「しつ……静かに、婆や! そんなに敲いちや駄目、坊やが寐てるんだから。坊やは長いこと泣いてゐて、今やつと寐ついたんだから、これからあたし森へいくのよ、婆や! 何だつてお前そんなにあたしの顔をジロジロ見るのさ? お前は怖いよ。お前の眼からは鉄の釘抜がとび出してゐるわ……まあ、あんなに長い! そして火のやうに真赤に灼けてるわ! お前はてつきり妖女《ウェーヂマ》よ! ああ、お前が妖女《ウェーヂマ》なら、さつさと消えておしまひ! お前はあたし
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