代よ! 何処へ消え失せたのか、俺の時代は? こらつ、穴倉へ行つて蜜酒を一杯もつて来い! 俺は過ぎ去つた幸福と遠い昔の思ひ出に乾杯するのだ!」
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コナシェー※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ サガイダーチヌイのこと。(前篇の註参照)
聯合教《ウニャ》 羅馬教会と希臘教会との妥協聯合せる教派のこと。
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「お客には何を喰はせてやりませう、旦那? 牧場の方角から波蘭の餓鬼どもが押し寄せて参りますが!」と、母家へ入るなりステツィコが言つた。
「奴等のやつて来るわけは分つとる。」と、ダニーロが席を立ちながら口走つた。「さあ皆の者馬に鞍を置け! 武具《もののぐ》をつけろ! 刀を抜け! 鉛の輾麦《わり》を忘れず用意しろよ。お客は鄭重に迎へなきやならんから!」
 だが、哥薩克たちが馬に跨がつて、まだ小銃に弾を装填《こめ》る暇もなく、波蘭軍は秋の落葉のやうに、山腹一面に群がり現はれた。
「や、鬱憤を晴らすには不足のない相手だぞ!」とダニーロは、黄金づくりの馬具を著けた駒に悠然と打ち跨がつて先頭に立つた大兵肥満の貴族どもを眺めながら、
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