言つた。「どうやら、もう一度、おれたちが功績を立てる時が来たらしいぞ! 哥薩克魂よ、最後に心ゆくまで楽しめ! さあ者ども、うんと浮かれるがいいぞ、おれたちの祭りが来たのだ!」
かくて山々は遊興と宴楽の巷と化した。劔が踊り、弾丸が唸り、馬が嘶きよろめく、雄叫びの声に気は遠くなり、硝煙に眼もくらんだ。両軍はごつちやに入り乱れてしまつた。しかし哥薩克は敵と味方を嗅ぎ分ける。弾丸がヒュツと音を立てるや、剽悍な騎士が馬背から転落する。長劔が一閃するや、胴をはなれた首が、とりとめもない言葉《こと》を口走りながら、地上に落ちる。
しかし、ダニーロのかぶつた哥薩克帽の赤い頂きは群集の間に見えてゐる。青いジュパーンに黄金《きん》いろの帯をしめたのが眼を射る。旋風のやうに黒馬《あを》が鬣を振る。さながら飛鳥のやうに、彼はかしこここに姿を現はし、雄叫びの声もろとも、ダマスクス製の長劔を振つて、右に左に敵を斬り伏せ、薙ぎ倒す。斬つて斬つて斬りまくれ、哥薩克! あばれまはつて、敵をやつつけろ! 逸《はや》る心の思ひの儘に。だが、黄金の馬具やジュパーンに眼を奪はれるな! 黄金や宝石は足もとに踏みにじれ! 斬れ
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