物語りながら、啜り泣いたものだ。ほんとに、カテリーナ、俺たちがその頃、土耳古人どもと渡りあつた有様をお前が知つてゐたらなあ! 俺の頭には今なほ傷痕が残つてゐる。俺の体は四ヶ所も弾丸《たま》に射貫かれて、その傷のうちひとつとしてすつかり癒り切つたのはない。その当時どんなに俺たちが黄金を手に入れたことか! 哥薩克どもは宝石を帽子で掬つたものだ。どんな馬を――カテリーナ、お前がそれを知つてゐたらなあ――どんな馬を俺たちが掠奪したことか! ああ、もう俺には、あんな戦ひが出来ん! まだ、耄《ぼ》けもせず、躯《からだ》も壮健なのに、哥薩克の長劔は手から※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]ぎ取られ、なすこともなく日を送つて、我れながら何のために生きてゐるのか分らないのだ。ウクライナには秩序がなくなつて、聯隊長や副司令がまるで犬のやうに、味方同士啀み合つてゐる。てんで衆を率ゐて先頭に立つ者がないのだ。こちらの貴族階級の者は皆、波蘭の風習を学び、見やう見真似で狡獪になり……*聯合教《ウニャ》を奉じて、霊魂を売り渡してしまつたのだ。猶太教が哀れな国民を圧迫してゐる。おお時よ! 時よ! 過ぎたる時
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