の上にあるやうに、娘や!」さう言ひながら、魔法使は娘に接吻した。
「わたしに触らないで下さい。話に聞いたこともないやうな重罪人、早くここを立ち去りなさい!……」と、カテリーナが言つた。
しかし魔法使の姿は、もはやそこにはなかつた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]あたしはあのひとを逃がしたのだ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]彼女は今更のやうに驚愕して、きよときよとと四方の壁を見まはしながら呟やいた。※[#始め二重括弧、1−2−54]今となつては、良人に何と申し訳のしやうがあらう? あたしはもうおしまひだ! あたしはもう、生きながら墓に埋められるよりほかはないのだ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]彼女はさめざめと涕きながら、囚人が坐つてゐた切株の上へくづをれるやうに身を伏せた。※[#始め二重括弧、1−2−54]でも、あたしは一つの霊魂を救つたのだわ。※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、また小声で彼女は呟やいた。※[#始め二重括弧、1−2−54]あたしは神意に適つた行ひをしたのよ。だけど、良人を……あたしは初めてあのひとを欺いたのだ。ああ、あのひとにむかつて嘘をいふのはど
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