んなに怖ろしく、どんなに難かしいことだらう! あれ、誰か来るやうだ! あつ、あのひとだわ! 良人だわ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう絶望的に口走るとともに、彼女は気を失つて地上に倒れてしまつた。
七
「わたくしでございますよ、お嬢さま! わたくしでございます、いとしいお嬢さま!」さういふ声が、やつと正気に返つたカテリーナの耳許で聞えて、彼女は目の前に老婢の姿を見出した。老婆は腰をかがめて、何か囁やくやうだつたが、痩せさらばうたその手をのばして、カテリーナに冷たい水をそそいだ。
「これ、何処なの?」カテリーナは起きあがつて、あたりを見まはしながら訊ねた。「前にはドニェープルが音を立ててゐるし、後ろには山が……。まあ、婆や、お前は、いつたい、どこへあたしを連れて来たのだえ?」
「わたくしはあなた様をお連れ申したのではございません、お運び申したのでございます。このわたくしの両腕で、あの息づまるやうな地窖《つちむろ》からお運び申したのでございます。そして、旦那さまがあなた様をお仕置になつてはと存じまして、扉にはちやんと錠をおろして置きましたよ。」
「それで、鍵は何処に
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