一方へ曲つた。見れば、そこには、大尉の家の婚礼に姿を現はした、あの同じ魔法使《コルドゥーン》が立つてゐるのだつた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]カテリーナ、お前の夢は正夢だつたぞ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、ダニーロ・ブルリバーシュは心に呟やいた。
 魔法使《コルドゥーン》が卓子のぐるりを歩きだすと、壁の上の符号がめまぐるしく変りはじめ、蝙蝠は上下左右に、一層はげしく翔び交はした。空色の光りはだんだん淡くなり、やがて消え失せてしまつたやうだ。すると部屋は再び微妙な薔薇色の光りに照らされた。微かな物音と共に不思議な光りが隅々まで漲つたと見る間に、突然その光りは消えて真暗になつた。ただ聞えるのは、静かな黄昏どきに、鏡のやうな水面を旋囘しながら、銀いろの柳の枝を水ぎはへ吹きなびかせて、サーッと吹き過ぎる夕風の音に似た騒音であつた。そしてダニーロには、その部屋の中で月が照り、星が運行して、青黒い空がほのかに明滅し、冷たい夜気が顔へ吹きつけて来るやうにさへ思はれた。それに次いでダニーロの眼には(茲で彼は、夢を見てゐるのではないかと、そつと自分の口髭に触つてみた)もはやその部屋の
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