ど、そこへ入るにはどうしたものか? 遠くから鎖の鳴る音と、犬の駈ける気配が聞える。
「俺は何をぐづぐづ考へてゐるのだ?」とダニーロが、その窓の前にある高い樫の樹を見あげながら言つた。「これ、お主はここに待つてゐろよ! 俺はこの樫の樹へのぼるのだ、ちやうど、まともにあの窓を覗きこむことが出来さうだから。」
そこで彼は帯を解き、音のしないやうに長劔を下におろして、枝に手を掛けると、するすると木へ登つて行つた。窓はやはりまだ明るかつた。窓の間近の木の股に腰を据ゑ、片手で幹につかまつたまま、そつと覗くと、部屋の内には別に灯火《ともしび》があるわけではないのに、それでゐて明るい。壁には奇怪な符号が描いてあり、甲冑が懸けてある。それはどれもこれも、基督教徒や愛すべき瑞典人といふに及ばず、土耳古人もクリミヤ人も、波蘭人さへ用ゐない、まつたく異様な品である。天井の下を前後に蝙蝠がひらひらと飛翔して、その影が壁や扉や床にゆらゆらと落ちる。ふと、扉が音もなく開いた。誰か赤いジュパーンを纒つた人間が入つて来て、つかつかと白い卓布を掛けた卓子に近づいた。
※[#始め二重括弧、1−2−54]やつぱり親爺だ!※
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