の》たちを戸口の前に寝《やす》ませておいて下さいまし。」
「どうなりと、好きなやうにするさ!」さう言ひながらダニーロは、騎銃の埃りを拭いて火皿へ火薬を注ぎ込んだ。
忠実なステツィコは、早くも哥薩克の武装に身を固めて立つてゐた。ダニーロは毛皮の帽子をかぶると、窓を閉ぢて、扉に閂を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]し、錠を下しておいて、郎党どもの寐てゐる間を通つて、そつと邸を抜け出すなり、山の中へと忍び込んだ。
空もおほかた晴れ渡つた。爽々しい夜風がそよそよとドニェープルの方から吹いて来る。遠くで鴎の声さへ聞えなかつたなら、万象《ものみな》が唖になつたのかとも思はれたであらう。ところが、ふと何かがさごそいふ物音が聞える……。ブルリバーシュは忠実な下僕といつしよに、そこに設けられた鹿砦を翳してゐる荊棘のしげみへそつと身を潜めた。誰か、赤いジュパーンを著た男が、腰には長劔を釣り、拳銃を二挺もつて山を降りて行く。
「親爺だな!」と、しげみの蔭からじつとそれを眺めながらダニーロが呟やいた。「今ごろ何の用で、何処へ行くのだらう? ステツィコ、油断なく、あの親
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