子《ガルーシュキ》を美味くないなどとおつしやるのです? うちのカテリーナは大総帥《ゲトマン》でも滅多に口にすることの出来ないやうな煮団子《ガルーシュキ》を拵らへるのですよ。どうしてどうして、難癖をつけるどころではありませんよ。これは正教徒の食物《たべもの》です! 聖者や使徒たちも、みんな煮団子《ガルーシュキ》を食つたのです。」
 父親は一言の応へもしなかつた。ダニーロも口を噤んだ。
 玉菜と杏子を詰めた豚の丸焼が出た。
「わしは豚は嫌ひぢや!」と、父親は匙で玉菜を掻き出すやうにしながら言つた。
「どうしてまた豚が嫌ひなんです?」と、ダニーロが言つた。「豚を食はないのは土耳古人と猶太人だけですよ。」
 父親は一層けはしく渋面をつくつた。
 老父は乳入りの*レミーシュカだけを食べて、火酒のかはりに、懐ろから何か黒い水のやうなものの入つた壜を取り出して呑んだ。
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レミーシュカ 麦粉で作つた粥のやうなもの。
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 午餐の後で、ぐつすり一と眠りしてダニーロが目を覚ましたのは、もう夕方だつた。彼は卓子に向つて、哥薩克の軍営へ送る報告を
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