、父親は帽子を脱いで、珍らしい宝石入りの長劔《サーベル》を釣つた帯皮を直しながら、言つた。「もうこんなに日が高いのに、お前の家では午餐《ひるめし》の支度も出来てをらんぢやないか。」
「午餐《おひる》の用意は出来てゐますよ、お父さん、すぐに出しますわ! これ、煮団子《ガルーシュキ》の壺を下しておいで!」とカテリーナは、木の器を拭いてゐる老婢に向つて、「いいえ、お待ち、あたしがおろした方がいいから。」と言葉をつづけた。「お前は若い者たちを呼んでお呉れ。」
 一同は車座になつて床に坐つた。聖像下《ポークト》に面して父親が、その左手にはダニーロが、右手にはカテリーナと、それに続いて十人の最も信任の厚い郎党が、青や黄のジュパーンを著て居流れた。
「わしはこの煮団子《ガルーシュキ》といふものを好かんのぢや!」と、父親は一と口食つて見てから、匙を下に置いて言つた。「味もそつけもないもんぢや!」
※[#始め二重括弧、1−2−54]へん、お前さんにやあ、猶太人の索麺《ラプシャ》が気に入るだらうて。※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、ダニーロは心の中で呟やいたが、口に出しては、「どうして阿父さんは煮団
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