こんな馬鹿げた夢なんかほんとにしないで下さいな! 何だかあたし、そのひとの前に立つてゐたやうなんですの。怖ろしさに躯《からだ》ぢゆうをわなわな顫はせて、そのひとのいふ一言一句に身内の呻くやうな思ひをしながら。まあ、そのひとの言つたことをあなたがお聞きなすつたなら……。」
「どんなことを言つたといふのだい、カテリーナ?」
「かう言ふのです、※[#始め二重括弧、1−2−54]カテリーナ、俺の顔をよく見るがよい。どうぢや、俺は美男ぢやらうが! 俺を醜男《ぶをとこ》だなどと、他人《ひと》はくだらぬことを言ひをる。けれど、俺はお前にとつて立派な良人になれるのぢや。そうれ見るがよい、この俺の眼つきを!※[#終わり二重括弧、1−2−55]――さう言つて、そのひとは火のやうな眼差をあたしに注ぎました。それであたし、あつと声を立てたら、眼が覚めましたの。」
「さうだ、夢はよく真実を語るものだ。それはさうとお前、山むかふが穏やかでないことを知つてをるか? またしても波蘭の奴らが、ちよいちよい隙を窺ひはじめをつたらしいぞ。ゴロベーツィが使ひをよこして、俺に夜は眠るなといつて来たが、彼の心配は無用だ。俺は、さ
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